東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)206号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
1 審決(成立について争いのない甲第一号証)は、訂正明細書(成立について争いのない甲第六号証)第九頁第一二行ないし第一五行の記載では、焼結したものを更に焼結することになり技術的意味がわからず、たとえこの記載をアルミナを主成分とする材料を用いる意味に解したとしても、どのような結合材を用いるか説明がないので焼結材料がはつきりしないといい、同じく訂正明細書第九頁第六行ないし第一一行に焼結の一般的説明と解される記載はあるが、本願発明は、その記載のように微粒子の集合を加熱するものではなく、物体である容器と栓体を焼結によつて接着するというものであるから、その記載によつても依然として焼結方法がわからず、他に焼結の材料、方法を明示するところがないという。
審決が、訂正明細書中に焼結の一般的説明と解される記載があるという第九頁第六行ないし第一一行に続く同頁第一二行ないし二〇行には、「したがつて、前述したように緻密焼結した透光性の多結晶酸化アルミニウムすなわちアルミナよりなる接着材料を同じ材料からなる放電灯容器内で焼結させると、焼結前においては、その接着材料における微粒子の密度が放電灯容器の器壁における微粒子の密度よりわずかに高かつたのに対し、焼結中においては、放電灯容器の器壁の方が接着材料よりも急速に収縮するので、かかる焼結によつて気密封着が達成されることになる。」と記載されていることが認められるところ、右記載による表現は極めてあいまいであつて、一読してその意とするところを正確には把握し難いが、訂正明細書の記載の全体の趣旨、特に特許請求の範囲の記載及び本件出願前公知とされる技術を勘案すると右部分の記載は、本願発明が、第一段階のアルミナ焼結の度合いを異にする栓体と容器とを適当な条件の下で第二段階の焼結(再度焼成)をするときの両物体の接触面の収縮差を利用して両物体の気密接着を達成しようとするものであることを示すものであると解される。
(一) 焼結したものを更に焼結することについて
訂正明細書は、その第七頁第六行ないし第一二行及び特許請求の範囲の項において、「少なくとも給電部材封着部分を円筒形にして放電空間を構成する透光性緻密焼結アルミナ製の放電灯容器に少なくとも一個の給電部材を気密に封着した放電灯において、透光性緻密焼結アルミナからなる栓体を前記円筒形の部分に配置して前記放電灯容器に気密に焼結させる」と記載し、本願発明は、アルミナ微粉末を焼結して得た栓体を、同じくアルミナ微粉末を焼結して得た放電灯容器の円筒形部分に配置して気密に焼結させることをその一内容とするものであることを示している。しかして、成立について争いのない甲第七号証(昭和三五年コロナ社発行、榛葉久吉著「粉末冶金学」)には、一般に、アルミナ粉末等の焼結の度合いには、特に焼結品の密度に関して、焼成の温度及び時間により相当の幅があることが、また、成立について争いのない甲第八号証(特許出願公告昭三八―二〇八四二号公報)には、アルミナ等の焼成操作を二段階又はそれ以上の多段階に分けて実施する技術が記載されており、これらはいずれも本件出願前に公知であつたものと認められる。そうすると、一旦ある程度まで焼結したものを再び適当温度で適当な時間だけ焼成すれば、焼結の度合いが進行することは当然であつて、このような処理を、本願発明におけるように、焼結したものを更に焼結するという趣旨で表現しても、当業者は、その技術的意味を理解することができるものというべきである。
(二) 焼結材料について
訂正明細書第五頁第一行ないし第九頁第六行には、本願発明は、透光性緻密焼結アルミナ製の放電灯管体に栓体を気密に封着するのに接着硝子を用いていた従来方法の欠点を除くことを目的として、栓体を放電灯容器に焼結によつて封着させるものである旨が、また、第一〇頁第一行ないし第四行には、放電灯容器と栓体との封着には接着硝子を用いないことが記載されている(図面第2図には、栓体と給電部材との間に、両者を接着すべき接着硝子の層(21)が相当の幅をもちハツチングを施して示してあるのに対し、栓体と放電灯容器との間には太い黒線(20)があるのみで、このことはまた栓体と放電灯容器との間は接着硝子を用いて封着するのでないことを示している。)。
しかして、前記のとおり、焼結したアルミナを適当な条件(温度及び時間)の下で再度焼成することにより、焼結の度合いを更に進行せしめる技術は、本件出願前公知であり、本願発明の訂正明細書においても、焼結の度合を異にする焼結製品を適当な条件の下で再度焼成するときの収縮差を利用する気密封着の技術が示されている(第九頁第一五行ないし第二〇行)。
被告は、原告の訂正明細書第九頁第一二行ないし第一五行の記載における「接着材料」の語が「栓体」を意味するものであるとの主張を種々論難する。しかし、訂正明細書中の右箇所の記載がはなはだ明瞭を欠くものであることは前指摘のとおりではあるが、前に説明したところから分るように、同所における「接着材料」は、原告主張のように、「栓体」を意味するものと解して差支えない。
2 審決は、訂正明細書第一〇頁第一九行ないし第一一頁第一行の記載では、給電部材に沿う接着硝子の薄層の端部が放電空間に露出していないとあるが、図面では明らかに露出しており、また露出しないと解すべき根拠もないので、この薄層端部から漏洩が生じない理由がわからないという。
そこで検討するに、訂正明細書第八頁第一五行ないし第九頁第三行には、「従来の構造では、放電灯容器の内側で容器と栓体とが接する隅の部分に接着材料の環状の溜りが生じ、その溜りの接着材料がガス放電灯の動作中に高い動作温度で侵食性のガス雰囲気に曝され、その結果として、放電灯容器の変色が頻発するだけではなく、その溜りの部分で接着材料に亀裂が生じ、その亀裂が栓体と容器との間にある接着材料にまで及ぶことが屡々起る、という欠点があつた。」と記載され、第一六頁第九行ないし第一五行には、本願発明においては、「放電空間内において給電部材(6)と栓体(7)とが接する隅の部分には、放電空間の侵食性ガス雰囲気に侵される可能性のある接着硝子が本質的に存在せず、また、放電空間の外で接する隅の部分には接着硝子の環状の溜りができるが、放電空間の外では侵食性ガス雰囲気によつて侵されるおそれは全くない。」と記載されていることが認められる。
右の記載は、放電灯空間の中の栓体と給電部材とが接する隅の部分に接着硝子の溜りが生ずると、そこが侵食性ガス雰囲気に侵されて亀裂が生じ、その亀裂が栓体と給電部材との間の接着硝子層にまで及びそこからガスの漏洩が生ずる原因となるが、本願発明においては、放電灯空間の中の栓体と給電部材とが接する隅の部分には接着硝子の溜りが生じないから、そのようなガスの漏洩は生じないことを示しているものと解される(第2図、第3図にも、右部分には(21)、(28)の部分にあるような溜りは示されていない。)。
右のとおりであるから訂正明細書中審決指摘部分に「薄層の端部が容器内の放電空間に露出して侵食性ガス雰囲気に高温で曝されるおそれがなく」とあるのは、接着硝子の薄層の端部が容器内の放電空間に溜りとして露出して侵食性ガス雰囲気に高温で曝されるおそれがない、との趣旨に解することができるものであり、またそう解することが本願明細書の意とするところを正しく解するものというべきである。そうすると、本願発明において栓体と給電部材との間の接着硝子層の端部からガスの漏洩が生じない理由も理解できるものである。
三 右のとおりであつて、本件出願は明細書の記載が特許法第三六条第四項及び第五項に規定する要件を充足しないとした審決は、その判断を誤つたものであり、違法であるから、取消を免れない。
よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「焼結アルミナ容器放電灯」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九六七年三月三一日オランダ国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四三年三月二八日特許出願をしたところ、昭和四九年六月二六日拒絶査定を受けたので、同年一〇月二八日これに対する審判を請求した。右事件は、特許庁昭和四九年審判第八九三一号事件として審理され、昭和五三年一二月一四日拒絶理由通知を受けたので、原告は昭和五四年四月二〇日全文補正明細書(以下「訂正明細書」という。)を提出したが、昭和五四年七月一九日「本件審判の請求は成り立たない」との審決があり、その謄本は同年八月八日原告に送達された(なお、出訴期間として三か月が附加された。)。
二 本願発明の特許請求の範囲
少なくとも給電部材封着部分を円筒形にして放電空間を構成する透光性緻密焼結アルミナ製の放電灯容器に少なくとも一個の給電部材を気密に封着した放電灯において、透光性緻密焼結アルミナからなる栓体を前記円筒形の部分に配置して前記放電灯容器に気密に焼結させるとともに、前記栓体に開口を設けてその開口中に、八〇〇℃より高く、かつ、透光性緻密焼結アルミナ及び前記給電部材を構成する金属の融点より低い融点を有する接着硝子により前記給電部材を気密に封着し、さらに、前記給電部材を貫通させる開口を有するとともに前記放電灯容器の円筒形の部分及びその円筒形の部分に配置した前記栓体を支える透光性緻密焼結アルミナ製の蓋体を、八〇〇℃より高く、かつ、透光性緻密焼結アルミナ及び前記給電部材を構成する金属の融点より低い融点を有する接着硝子により前記放電灯容器、前記栓体及び前記給電部材に気密に封着したことを特徴とする焼結アルミナ容器放電灯。
なお、本願発明の図面は、別紙図面のとおりである。
〔編註その二〕 本件に開する図面は左のとおりである。
別紙図面
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